詩人谷川俊太郎氏の直筆原稿です。原稿用紙は全体的にくすんでおり、シワと破れがあります。昔神保町の老舗の古書店で購入したものです。　「横面を張られたような気持」と題する文章の全文は以下の通りです。「この人の詩を初めて読んだとき、それらがそれまでに読んだどんな詩とも違っていることに私は驚いた。ひとりだけ他の詩人たちから離れて、ぽつんと立ちつくしている、そんな感じだった。「ゴオルドラッシュ」、「託児所をつくれ」、「文壇風刺詩編」などを読むと、日本語でこういうことが出来るのかと、横面を張られたような気持ちになる。この人の詩は間髪を入れず私に影響したが、この人のかかえこんだものを、そのまま私がかかえこめる道理はない。だが、その詩法の一部は戦後詩人の何人かによってたしかに継承され、そこにはまだいろいろな可能性がかくされている。つまり、この人の怒りも苦しみも哀しみも、解決されるどころかますます深まっているということだ。この人のいささか一本調子の語り口には、一本調子である他なかったのっぴきならないものがあり、それはひとつのしこりのようにいつまでも残る。谷川俊太郎」　感性豊かな文章表現、個性的な筆跡から真筆に間違いないと思います。（2014年9月16日付けの谷川俊太郎氏のFacebookには、氏が出版社に原稿を渡すときは鉛筆書きで清書してから渡す云々という記事があります。）　詩人とは、詩編の題名から判断してプロレタリア詩人の小熊秀雄。詩集発行に寄せられた讃辞かと思い、岩波文庫の小熊秀雄詩集や谷川俊太郎氏の書籍などに当たってみましたが、掲載先はまだ分かりません。　幸い(笑)、本商品の購入者はおいそれとは現れないでしょうから、世の中が落ち着いてきたら大きな図書館に通って「小熊秀雄全集」（創樹社、全5巻）の月報に当たるなどして調べてみるつもりです。　谷川俊太郎氏の詩人としての大きな功績、プロレタリア文学について触れた貴重な文献としての価値、世に一つしか存在しない生原稿の希少性。そして、詩人になることを夢見ていた若い頃の私を、この人が叩きのめしたという極めて個人的な事情(笑)から総合判断して値付けをいたしました。　谷川俊太郎氏、または小熊秀雄のファンで、家宝にしたいと思うような方にお薦めします。